判例・裁判例

東京地裁、日本ボクシングコミッションの元事務局長が提起した解雇無効等確認請求訴訟で、解雇事由とされた事実が認められないとして解雇を無効とするなど原告の請求認容の判決

日本ボクシングコミッション(JBC)の元事務局長が就業規則違反を理由としてされた同氏に対する解雇を,不当解雇であるとして東京地裁に訴訟提起をしており、加えて同氏が解雇に先立って受けた降格処分の無効確認訴訟も提起していたところ、解雇無効、降格処分も無効という原則の請求認容の判決に至ったことが明らかになりました。

懲戒解雇については、被告の主張では、「別団体を設立しようとした上、ボクサーの個人情報を外部に漏らした」などとして懲戒解雇にしたとされているのですが、東京地裁は、解雇事由とされた事実について証拠がないなどとして、懲戒事由該当性を否定する判断をした模様です。

また、これに先立つ降格処分についても、被告は業務上の不手際としていますが、東京地裁じゃ「JBCが団体分裂を回避するため、現事務局長代行らの要求を受け入れて安河内氏を排除することが目的だった」と指摘している模様です。

裁判例情報

東京地裁平成26年11月21日判決…


最高裁、妊娠を理由としての軽易業務への転換を契機として降格させる措置は、本人の同意又は均等法の趣旨に実質的に反しないと認められる特段の事情がある場合には、均等法の禁止する不利益取扱いに当たらないと判示

いわゆるマタハラとして、注目された案件に関する最高裁判決が出ました。

最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決 平成24(受)2231 地位確認等請求事件

これは妊娠をきっかけに軽易業務への転換を求めた職員が、すでにその職員は管理職だったところ、配転に際して管理職から免じられ、産前産後休暇を経て元の職場に復帰した際には、元の管理職のポストには別の職員がついていたため、そのまま管理職ではない地位のままの勤務を余儀なくされたことを、均等法違反であるとして使用者の広島中央保健生活協同組合を相手取って地位確認請求等を行ったという事件です。

論点としては、軽易業務への転換は労働基準法に定めがある制度であり、その際に付随して行った降格が均等法で禁止されている不利益取扱いにあたるかという問題になります。

労働基準法

第65条(産前産後) 
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
②使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

最高裁はこの論点について、以下のような一般論を示しました。

一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ,上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。

要するに、妊娠に伴う軽易業務への転換時に、降格するには、同意がいるか、特段の事情が必要であるということで、本件の事情では、真意からの同意ではないといえるとして、特段の事情があるかを判断する必要があるため、差し戻しています。

もっとも、広く判示されている一般論とは別に、本件の特殊事情が判旨で指摘されています。

最高裁は、本件で問題となっているのは実は第2子の妊娠出産の際であり、第1子の際にはこのような取扱いはされていないこと、また、争点にならなかったために事実として出ていないためかもしれませんが、本件では軽易業務への転換であるところ、それによる本人への有利な点についていまいち明らかではないということ、そして、使用者からの説明があまり尽くされているように見受けられず理解を得ようという丁寧さがあったように見えないことが言及されています。

したがって、要員配置などに照らして人事上の必要性があるということがあるなら、それによる正当化の余地はあるのでしょうが、特段の事情がかなりハードルの高いものになってしまったために、充たすことは極めて困難であるように思われます。

この判例の判示するところに従いますと、伝統的な日本的な人事・賃金制度である職能資格制度を持っており、漫然と運用しているととんでもない事態に直面することになりかねず、そのようなリスクのある企業は多いように思われます。…


大阪地裁、市職員の労働組合が提起した大阪市による市庁舎内の事務所の使用不許可処分の取消訴訟で請求を認容して、処分を取消

橋下市長になってから大阪市において、市職員労組との対立的な出来事がいくつか起きましたがそのうちの一つに、労働組合の事務所を市庁舎内から退去させたというものがありました。

この件について、労働組合から庁舎内の組合事務所の使用不許可処分の取消訴訟が提起されていましたが、大阪地裁は組合側の請求を認めて、処分の取り消しのほか損害賠償も認めました。

使用者から労働組合への便宜供与は、労働組合性を失わせるという意味で許されませんが、必要最低限の組合事務所の貸与は例外とされています。

そのため、一般的な会社において、これまで貸与してきたものをいきなり退去させたとなれば、不当労働行為になることは堅いと思われます。しかし、本件の特殊性は、あくまで民主な統制に服する地方自治体においてのことであり、特に便宜供与を禁止する条例があるという点にあります。

それでも、便宜供与にそもそも当たらないと解されていることからすれば、やはり不当労働行為ということになるでしょう。判決全文は確認できていませんが、報道によると、事実認定において、当初は許可の意向だったのに、組合が反対候補の支援をしていた事を知ってから市長の意向が一転したなどの事実が指摘されている模様であり、不当労働行為の意思があったので権限の濫用があるのだという構成になっているものと思われます。ここからいくと、便宜供与ではあるが権限行使は濫用という構成をとっていると推測されるところです。

あくまで行政処分の取消訴訟であるという点に配慮した構成をしているのではないかと思われます。もっとも、行政上の必要性がある公の施設において貸与を続けないといけないのかは、別の問題であり、本件の構成をかんがみると、事情によっては組合事務所を貸与しなくても不当労働行為にはならない場面がありうるものと思われます。

裁判例情報

大阪地裁平成26年9月10日判決…


仙台高裁、岡山貨物運送の営業所長が他の従業員の前で繰り返し叱責した行為と自殺との因果関係を認定

岡山貨物運送の運転手が自殺したところ、長時間労働と営業所長が他の従業員の前で繰り返し叱責したパワハラが原因であるとして遺族が会社を相手取って損害賠償請求訴訟を提起したところ、一審の仙台地裁は長時間労働との因果関係だけを認定していましたが、控訴審の仙台高裁はパワハラとの因果関係も認定して、会社と営業所長に損害賠償の支払いを命じました。

パワハラが争われる際には、パワハラに該当するのか事態が争点になるのですが、本件では自殺という事態が生じていることから、自殺との因果関係そのものが問題となっているため、繰り返し叱責した行為がパワハラであるかという問題より次元が一つ進んだ点について判断が示された点に意義があるといえましょう。

裁判例情報

仙台高裁平成26年6月27日判決…


岡山県労働委員会,セブンイレブンのフランチャイズオーナーを労働組合法の労働者と認定 セブン-イレブン・ジャパンの団交拒否を不当労働行為と認定して救済命令

セブン-イレブン・ジャパンのフランチャイジーであるフランチャイズオーナーが労働組合を結成して本部に対して団体交渉を求めたところ拒否されたため労働委員会に救済命令の申し立てを行うという衝撃的な事態が発生したのは2010年3月のことですが,このたび,救済命令の発令という形でとりあえずの結論が出たことが明らかになりました。

不当労働行為救済申立事件の救済命令について – 岡山県ホームページ

岡山県労働委員会は,セブンイレブンのフランチャイズオーナーを労働者と認定して,団交を拒否したセブン-イレブン・ジャパンの行為を不当労働行為と認定して,救済命令を発令しました。

すでに救済命令の全文が公表されており上記労働委員会のホームページから見ることができます。

判断の詳細については追って解説記事を作成したいと思います。

3年越しの労働委員会事件というのは非常に珍しく,判断が非常に難しい事件であったことが伺われます。

セブン-イレブン・ジャパンにとっては到底承服できない内容であることから,中央労働委員会への再審査の申立てかこの事件で取消訴訟を提起することが明言されています。…


大分地裁,正社員と業務が同じであるとして,会社にパート社員に正社員の賞与との差額等を,不法行為の損害賠償として支払うように命じる

非正規雇用であり,パートタイム労働法の対象となる準社員が,正社員と同じ業務をしているとして,正社員と同じ賞与などの支払いなどを求めたところ,正社員の賞与との差額分の約160万円を不法行為に基づく損害賠償として支払いを命じるなど,請求の一部を認容する判決が大分地裁で出ました(大分地裁平成25年12月10日判決)。

パートタイム労働法では正社員と同じパートタイム労働者との間で差別禁止が定められています(パートタイム労働法8条)。

この反すると,当該違反している法律行為は無効となるわけですが,その代わりのどのような労働条件になるのかは微妙な問題です。

実際のところ,正社員の労働条件で代替されると解するためには,労基法13条のような規定がある必要がありますので,そのような規定をパートタイム労働法では欠いている以上,労働条件が代替されると解することはでいないと考えられます。しかし,このパートタイム労働法8条のような私法上の強行規定違反は不法行為を構成することは見解が一致していますので,その損害賠償の損害額の根拠として正社員との差額で計算して賠償を命じたという判断になっています。

正社員と同じ業務をしているパートタイム労働者となると,正社員との賃金の差額を賠償する結論となるという点に注意が必要である点に注意喚起をさせていただきます。


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