最高裁、妊娠を理由としての軽易業務への転換を契機として降格させる措置は、本人の同意又は均等法の趣旨に実質的に反しないと認められる特段の事情がある場合には、均等法の禁止する不利益取扱いに当たらないと判示

いわゆるマタハラとして、注目された案件に関する最高裁判決が出ました。

最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決 平成24(受)2231 地位確認等請求事件

これは妊娠をきっかけに軽易業務への転換を求めた職員が、すでにその職員は管理職だったところ、配転に際して管理職から免じられ、産前産後休暇を経て元の職場に復帰した際には、元の管理職のポストには別の職員がついていたため、そのまま管理職ではない地位のままの勤務を余儀なくされたことを、均等法違反であるとして使用者の広島中央保健生活協同組合を相手取って地位確認請求等を行ったという事件です。

論点としては、軽易業務への転換は労働基準法に定めがある制度であり、その際に付随して行った降格が均等法で禁止されている不利益取扱いにあたるかという問題になります。

労働基準法

第65条(産前産後) 
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
②使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

最高裁はこの論点について、以下のような一般論を示しました。

一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ,上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。

要するに、妊娠に伴う軽易業務への転換時に、降格するには、同意がいるか、特段の事情が必要であるということで、本件の事情では、真意からの同意ではないといえるとして、特段の事情があるかを判断する必要があるため、差し戻しています。

もっとも、広く判示されている一般論とは別に、本件の特殊事情が判旨で指摘されています。

最高裁は、本件で問題となっているのは実は第2子の妊娠出産の際であり、第1子の際にはこのような取扱いはされていないこと、また、争点にならなかったために事実として出ていないためかもしれませんが、本件では軽易業務への転換であるところ、それによる本人への有利な点についていまいち明らかではないということ、そして、使用者からの説明があまり尽くされているように見受けられず理解を得ようという丁寧さがあったように見えないことが言及されています。

したがって、要員配置などに照らして人事上の必要性があるということがあるなら、それによる正当化の余地はあるのでしょうが、特段の事情がかなりハードルの高いものになってしまったために、充たすことは極めて困難であるように思われます。

この判例の判示するところに従いますと、伝統的な日本的な人事・賃金制度である職能資格制度を持っており、漫然と運用しているととんでもない事態に直面することになりかねず、そのようなリスクのある企業は多いように思われます。

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