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厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会、ホワイトカラー・エグゼンプションについて健康維持策の義務付けを議論

ホワイトカラー・エグゼンプションについての審議会における議論が進んでおり、通常国会への提出を見据えて、適用に当たっての細部の条件について検討が進んでいます。

12月24日に行われた厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会第121回労働政策審議会労働条件分科会において、ホワイトカラー・エグゼンプションについては、健康確保のために義務付ける内容が議論されました。

労働条件分科会審議会資料 |厚生労働省

まだ、議事録が公開されていないため、議論の内容は報道によるしかありませんが、健康維持策の義務付けで合意が得らえたとされています。

報道によると健康維持策としては以下のようなものが上がった模様です。

  1. 労働時間や在社時間の把握義務
  2. 長時間労働が疑われる場合には産業医の面談を受けさせる
  3. 一定日数の休日取得 or 労働時間の上限 or 次の勤務との間に一定時間の休息の確保

1と2は現在の裁量労働制でも必要とされる措置であり、この制度についても裁量労働制とパラレルに捉えていることが伺われます。しかし、ホワイトカラー・エグゼンプションは、深夜、休日の割増賃金も発生しないようになることが前提として議論されていることから、裁量労働制とは異なる中身になることにも注意が必要でしょう。

特徴的なのは3ですが、3つの選択肢からいずれかを採用することを求める方向とされています。

連続労働を抑制する必要がある観点からの歯止めになるものであり、むしろ年単位の変形労働制での仕組みにちかいものがあります。年単位の変形労働時間制では総労働時間の枠がありますし、連続しての長時間労働が続かないように限界がいくつかもうけられていますので、それに近いものがあるといえるでしょう。

また、勤務と勤務の間の休息については、日本法上は新しい発想といえます。

次の検討課題としては、年収や職種の範囲に移るものとされています。…


厚生労働省、企画業務型裁量労働制について本社で一括申請を可能にするなどの見直しを検討と報道される(弁護士・社会保険労務士 荒川仁雄)

裁量労働制の見直しが厚生労働省の労働政策審議会で検討のテーマに上っていますが、厚生労働省が裁量労働制について見直しを検討している内容が日経新聞で報道されました。

29日に日経新聞及び電子版で報道されたところによると、企画業務型裁量労働制について以下のような見直しが検討されているとのことです。

  • 事業所単位の申請から本社で一括申請可能にする
  • 労働時間及び健康確保の仕組についての定期報告の義務を廃止か頻度を減らすことを検討

上記のような内容からいきますと、手続きの簡素化だけですので利用の増加等につながるかは不透明で、今後の議論の進展が待たれるところです。…


厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会、中小企業にも月60時間超の時間外労働の割増率を引き上げること及び有給休暇の消化を義務付ける案を提示

11月5日に厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会が開催され、今後の労働時間法制について重要な提示がなされました。

労働条件分科会審議会資料 |厚生労働省

報道とすでに公開されている資料からは、今後の労働時間法制などについて以下のような提案がされたことが伺われます。

審議会として新規に登場したものは以下の点です。

  • 中小企業についても月60時間を超えた分の時間外労働の割増賃金の割増率の引き上げを行う
  • 企業に有給休暇の取得の義務付けを行う

その他、すでに俎上に上っているものについても、以下のような内容が記載されています。

  • フレックスタイム制の清算期間の延長などの修正
  • 裁量労働制の拡大
  • ホワイトカラーエグゼンプション

次期通常国会をめどに所与の法的措置を検討するとなっており、今後議論が行われるものと思われます。

中小企業については猶予している月60時間超の時間外労働の割増率の引き上げは、一度は猶予したものの3年後には再検討としていたものでして、労働法の世界ではこれは3年後にはほぼ必ずそのまま実施となるのが常ですので、本件についてもこのまま適用拡大になるのではないかと予想されます。…


最高裁、妊娠を理由としての軽易業務への転換を契機として降格させる措置は、本人の同意又は均等法の趣旨に実質的に反しないと認められる特段の事情がある場合には、均等法の禁止する不利益取扱いに当たらないと判示

いわゆるマタハラとして、注目された案件に関する最高裁判決が出ました。

最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決 平成24(受)2231 地位確認等請求事件

これは妊娠をきっかけに軽易業務への転換を求めた職員が、すでにその職員は管理職だったところ、配転に際して管理職から免じられ、産前産後休暇を経て元の職場に復帰した際には、元の管理職のポストには別の職員がついていたため、そのまま管理職ではない地位のままの勤務を余儀なくされたことを、均等法違反であるとして使用者の広島中央保健生活協同組合を相手取って地位確認請求等を行ったという事件です。

論点としては、軽易業務への転換は労働基準法に定めがある制度であり、その際に付随して行った降格が均等法で禁止されている不利益取扱いにあたるかという問題になります。

労働基準法

第65条(産前産後) 
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
②使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

最高裁はこの論点について、以下のような一般論を示しました。

一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ,上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。

要するに、妊娠に伴う軽易業務への転換時に、降格するには、同意がいるか、特段の事情が必要であるということで、本件の事情では、真意からの同意ではないといえるとして、特段の事情があるかを判断する必要があるため、差し戻しています。

もっとも、広く判示されている一般論とは別に、本件の特殊事情が判旨で指摘されています。

最高裁は、本件で問題となっているのは実は第2子の妊娠出産の際であり、第1子の際にはこのような取扱いはされていないこと、また、争点にならなかったために事実として出ていないためかもしれませんが、本件では軽易業務への転換であるところ、それによる本人への有利な点についていまいち明らかではないということ、そして、使用者からの説明があまり尽くされているように見受けられず理解を得ようという丁寧さがあったように見えないことが言及されています。

したがって、要員配置などに照らして人事上の必要性があるということがあるなら、それによる正当化の余地はあるのでしょうが、特段の事情がかなりハードルの高いものになってしまったために、充たすことは極めて困難であるように思われます。

この判例の判示するところに従いますと、伝統的な日本的な人事・賃金制度である職能資格制度を持っており、漫然と運用しているととんでもない事態に直面することになりかねず、そのようなリスクのある企業は多いように思われます。…


日立、全世界で共通の人事制度を構築。管理職に世界共通のグレード制度を導入して日本国内の管理職の賃金から年功的要素を廃止

日立が世界の管理職の処遇を共通化することで、日本国内に限ると年功的な要素がなくなったことが明らかになりました。

ニュースリリース:2014年9月26日:日立

端的に言うと、日立の管理職の人事制度は、すでに日本の伝統的な職能等級制度からは脱皮しており、資格給と職位加算給の合体という内容であったとされています。

これは、上記リリース内の説明によると、職能資格制度と、アメリカで生まれた職務等級制度を日本風にアレンジした役割等級制度の中間程度のものであったようです。しかし、それでもまだ整理しきれていない職位があるなどの理由から、役割等級で全世界の仕事を貫くことで役割に応じて賃金を支給する仕組みを全世界で展開することになる模様です。…


伊藤忠商事、富士フィルムなどがホワイトカラーエグゼンプションの導入の検討と報道される

労働時間管理の対象から外すという内容であるホワイトカラー・エグゼンプションが検討されていますが、まだまだ検討段階であり、国会にも提出されていない段階です。しかし、すでに先を見越して、導入の検討を始めた企業が出ているという報道が8月18日付の日経新聞でなされました。

記事で名前が挙がったのは、伊藤忠商事、富士フィルムといった企業ですが、要するに法改正で導入されたら、採用しようという検討を始めたということです。

ホワイトカラー・エグゼンプションは労働基準法改正によって導入される方向になっていますが、現時点で取りざたされている内容では、年収要件などもあり、裁量労働制よりも対象を広げることは実現するものの、劇的に労働時間管理を不要とするものではないものになる模様です。…


王将フードサービス、未払残業代2億5500万円があったことを公表

王将フードサービスで未払い残業代があったことが明らかになりました。

プレスリリース

内容としては残業代を30分単位で取り扱っていたということで、これは30分行かないと時間外労働としてつけないということだと思われます。法律上は特に切り捨て等について定めがないため、ありのままに分単位で扱わないといけないものです。

ただし、通達があり、分単位で計算していったものを月の締めをするときに合計して、その合計を30分単位で切り捨て切り上げをすることは許容されています(昭和63年3月14日基発150号、婦発47号)。あくまで通達ですので、法的に有効なのかは別論ですが、実務の扱いがとてつもなく煩雑になることを避けるために、切り捨て切り上げも許容される場面もあるということは覚えておいてよいものと思われます。

また、本件の端緒が労働基準監督署による是正勧告であること明らかになっています。労基署が入った端緒については定かではないのですが、労基署が入ったことで、過去一定期間分の未払い残業代をまとめて支払うことを是正勧告という形で指導されることがよくあります。

このような是正勧告で未払い残業代の支払いを命じる場合は、労働基準法上の時効にかかっていない2年分すべての支払いを命じるのではなく、それより少ない月数の支払いをすれば行政としてはよいとするということもままあります。本件もそのような内容である模様であり、報道によると、王将は「さかのぼって調査する予定はない」というコメントをしていますが、これは是正勧告の内容に従うだけであることを述べているものと思われます。…


厚生労働省の「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会、限定正社員を増やすための施策をまとめた報告書をまとめる

実務での活用例も目立ってきている限定正社員ですが、その活用をより促すための施策が、厚生労働省の有識者懇談会『「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会』で議論されており、11日に報告書がまとまりました。

「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会審議会資料 |厚生労働省

この報告書の要旨をまとめると、限定正社員のさらなる活用のために4点示しています。

  1. 限定する内容を労働者に明示すること
  2. 正社員と限定正社員間の相互の転換制度
  3. 非正規雇用からの限定正社員への登用制度
  4. 均衡ある処遇

上記のうち3についてはすでにある助成金のうちの一部を活用することが可能であり、この提言によって新たに浮上したわけではなく従来から政府が促していた内容です。

上記はどれも人事制度を整備して、就業規則等の労働契約の内容を規律するものに具体化させていく必要があるため、実務に影響を与えるものと思われます。…


肥後銀行、自殺した行員の遺族からの損害賠償請求訴訟において、長時間労働と自殺との因果関係を認める

肥後銀行において、長時間労働について刑事事件となる事態になったことはすでにお伝えしましたが、この件はきっかけが行員の自殺であり、長時間労働による自殺と見受けられる点があったというものでした。刑事罰のほかに自殺については、労災認定がすでにされています。

この件では、自殺した行員の遺族から同行に対して損害賠償請求訴訟が提起されており、その訴訟の中で、長時間労働と自殺の因果関係について同行が認めたことが明らかになりました。

因果関係そのものは、規範的要件ではなく、普通の要件事実ですので、自白の対象になりますが、本件のような場合には、評価に近いものが出てきますので、被告の側で因果関係を認めるという判断もなかなか難しいものがあったように思われます。…


仙台高裁、岡山貨物運送の営業所長が他の従業員の前で繰り返し叱責した行為と自殺との因果関係を認定

岡山貨物運送の運転手が自殺したところ、長時間労働と営業所長が他の従業員の前で繰り返し叱責したパワハラが原因であるとして遺族が会社を相手取って損害賠償請求訴訟を提起したところ、一審の仙台地裁は長時間労働との因果関係だけを認定していましたが、控訴審の仙台高裁はパワハラとの因果関係も認定して、会社と営業所長に損害賠償の支払いを命じました。

パワハラが争われる際には、パワハラに該当するのか事態が争点になるのですが、本件では自殺という事態が生じていることから、自殺との因果関係そのものが問題となっているため、繰り返し叱責した行為がパワハラであるかという問題より次元が一つ進んだ点について判断が示された点に意義があるといえましょう。

裁判例情報

仙台高裁平成26年6月27日判決…