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厚木労働基準監督署長、社長の指示に従って事務作業などをしていた元専務を労働者として、元専務がうつ病で自殺したことについて労災認定

労災保険法上の労働者は、労働基準法上の労働者と同じ概念とされています。したがって、役員は労働者ではないことになるのが原則なのですが、労働者なのか経営者なのかということは実質的に判断されるので、指揮監督下で労働していたのかという点から判断されます。

労働基準監督署長による労災の認定という形で、役員なのか労働者なのかという点が問題となった事例で、労働者認定がされたことが明らかになりました。

報道によると、神奈川県大和市の物流業「アズマインターナショナル」の元専務が2011年6月に自殺したとのことですが、この件について厚木労働基準監督署長が、パワハラや過労によるうつ病が原因として労災認定したことが判明しました。遺族の代理人弁護士によると、専務は実態は社長の指示に従って事務作業を行うなど「名ばかり専務」だったとされています。 また、男性の手帳からは、自殺前の半年間に月百時間を超える残業が三回あったことが判明。月二回ほどは会社駐車場の車の中で未明に仮眠を取る状況が続いていたともされています。

名ばかり専務という、名ばかり管理職とパラレルのような取り扱い方になっていますが、役員なのか労働者なのかは昔からある問題であり、労働の実態に関しての事実認定がされたからこそ、労災認定がされているものと思われます。

労働基準法の労働者性の判断は、指揮監督下で労働していたかという点がメルクマールですが、上記で引用したとおり、専務のしていた作業内容などから実質判断がされているのではないかと憶測されます。報道によると、社長から「死ね」といわれたパワハラがあったということも言及されているのですが、労働者だからこそのことであるという間接事実にもなるかもしれませんが、あくまで労働者性の判断としては、指揮監督下での労働と評価される内容であったという点になるのだと思われます。


伊藤忠商事、富士フィルムなどがホワイトカラーエグゼンプションの導入の検討と報道される

労働時間管理の対象から外すという内容であるホワイトカラー・エグゼンプションが検討されていますが、まだまだ検討段階であり、国会にも提出されていない段階です。しかし、すでに先を見越して、導入の検討を始めた企業が出ているという報道が8月18日付の日経新聞でなされました。

記事で名前が挙がったのは、伊藤忠商事、富士フィルムといった企業ですが、要するに法改正で導入されたら、採用しようという検討を始めたということです。

ホワイトカラー・エグゼンプションは労働基準法改正によって導入される方向になっていますが、現時点で取りざたされている内容では、年収要件などもあり、裁量労働制よりも対象を広げることは実現するものの、劇的に労働時間管理を不要とするものではないものになる模様です。


王将フードサービス、未払残業代2億5500万円があったことを公表

王将フードサービスで未払い残業代があったことが明らかになりました。

プレスリリース

内容としては残業代を30分単位で取り扱っていたということで、これは30分行かないと時間外労働としてつけないということだと思われます。法律上は特に切り捨て等について定めがないため、ありのままに分単位で扱わないといけないものです。

ただし、通達があり、分単位で計算していったものを月の締めをするときに合計して、その合計を30分単位で切り捨て切り上げをすることは許容されています(昭和63年3月14日基発150号、婦発47号)。あくまで通達ですので、法的に有効なのかは別論ですが、実務の扱いがとてつもなく煩雑になることを避けるために、切り捨て切り上げも許容される場面もあるということは覚えておいてよいものと思われます。

また、本件の端緒が労働基準監督署による是正勧告であること明らかになっています。労基署が入った端緒については定かではないのですが、労基署が入ったことで、過去一定期間分の未払い残業代をまとめて支払うことを是正勧告という形で指導されることがよくあります。

このような是正勧告で未払い残業代の支払いを命じる場合は、労働基準法上の時効にかかっていない2年分すべての支払いを命じるのではなく、それより少ない月数の支払いをすれば行政としてはよいとするということもままあります。本件もそのような内容である模様であり、報道によると、王将は「さかのぼって調査する予定はない」というコメントをしていますが、これは是正勧告の内容に従うだけであることを述べているものと思われます。


厚生労働省の「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会、限定正社員を増やすための施策をまとめた報告書をまとめる

実務での活用例も目立ってきている限定正社員ですが、その活用をより促すための施策が、厚生労働省の有識者懇談会『「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会』で議論されており、11日に報告書がまとまりました。

「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会審議会資料 |厚生労働省

この報告書の要旨をまとめると、限定正社員のさらなる活用のために4点示しています。

  1. 限定する内容を労働者に明示すること
  2. 正社員と限定正社員間の相互の転換制度
  3. 非正規雇用からの限定正社員への登用制度
  4. 均衡ある処遇

上記のうち3についてはすでにある助成金のうちの一部を活用することが可能であり、この提言によって新たに浮上したわけではなく従来から政府が促していた内容です。

上記はどれも人事制度を整備して、就業規則等の労働契約の内容を規律するものに具体化させていく必要があるため、実務に影響を与えるものと思われます。


肥後銀行、自殺した行員の遺族からの損害賠償請求訴訟において、長時間労働と自殺との因果関係を認める

肥後銀行において、長時間労働について刑事事件となる事態になったことはすでにお伝えしましたが、この件はきっかけが行員の自殺であり、長時間労働による自殺と見受けられる点があったというものでした。刑事罰のほかに自殺については、労災認定がすでにされています。

この件では、自殺した行員の遺族から同行に対して損害賠償請求訴訟が提起されており、その訴訟の中で、長時間労働と自殺の因果関係について同行が認めたことが明らかになりました。

因果関係そのものは、規範的要件ではなく、普通の要件事実ですので、自白の対象になりますが、本件のような場合には、評価に近いものが出てきますので、被告の側で因果関係を認めるという判断もなかなか難しいものがあったように思われます。


仙台高裁、岡山貨物運送の営業所長が他の従業員の前で繰り返し叱責した行為と自殺との因果関係を認定

岡山貨物運送の運転手が自殺したところ、長時間労働と営業所長が他の従業員の前で繰り返し叱責したパワハラが原因であるとして遺族が会社を相手取って損害賠償請求訴訟を提起したところ、一審の仙台地裁は長時間労働との因果関係だけを認定していましたが、控訴審の仙台高裁はパワハラとの因果関係も認定して、会社と営業所長に損害賠償の支払いを命じました。

パワハラが争われる際には、パワハラに該当するのか事態が争点になるのですが、本件では自殺という事態が生じていることから、自殺との因果関係そのものが問題となっているため、繰り返し叱責した行為がパワハラであるかという問題より次元が一つ進んだ点について判断が示された点に意義があるといえましょう。

裁判例情報

仙台高裁平成26年6月27日判決


中労委、大阪市が行った職員に対する組合活動の調査を不当労働行為の支配介入と認定

大阪市においては橋下市長が就任後に職員に対する組合活動に関するアンケート調査を行いましたが、これについて組合側が大阪府労働委員会に救済命令の申し立てをして、不当労働行為と認定され救済命令が出ていました。

これに対して大阪市は中央労働委員会に再審査の申し立てをしていましたが、27日に、府労委と同じく、不当労働行為の支配介入と認定されたことが明らかになりました。

中労委命令の概要

現時点では概要しか公表されておらず、細かい判断は難しいものがありますが、判断の決め手は3つあるようにうかがわれます。

  • 業務命令で早期回答を命じていること
  • 内容が無限定であり、組合活動全般や組合の内部の問題にわたっていること
  • 当時の状況からみても組合を弱体化させようとする意図を持っていたこと

改正労働者派遣法が廃案、無期転換の特例を認める特別措置法も継続審議になることが明らかに

本年度の通常国会(第186国会)もいよいよ会期末ですが、技術的なミスで成立しないで終わる法律が出てしまうことになりました。

今国会では、労働分野でも注目の法改正や立法が提出されており、特に非正規雇用の問題に限ると以下のような立法・法改正が行われる予定となっていました。

  1. パートタイム労働法改正
  2. 専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法制定
  3. 労働者派遣法改正

しかし、このうち2と3については、今国会では成立しないことになりました。

所管している厚生労働省の事務的なミス等により、3の労働者派遣法改正案に誤りがあり、野党から提出し直しを求められたため、2の特別措置法にも影響してしまった模様です。

労働者派遣法改正案については廃案になり、出し直しということになる模様です。

一方、特別措置法については、継続審議となる模様です。

どちらも内容は現状のままで、秋に予定される臨時国会で審議されることになると思われます。


成長戦略の内容としてホワイトカラー・エグゼンプションを導入 労働基準法改正へ

安倍内閣の目指す労働法分野の規制緩和について、労働時間規制の緩和についてホワイトカラー・エグゼンプションを導入することが関係閣僚間で合意されました。

対象を専門職に限り、かつ年収1000万円超に限るという方向になっており、労働基準法の改正が平成27年度の通常国会に提出されることになるもようです。

条文の位置としては、労働基準法の労働時間のところに位置づけられる裁量労働制の前後に挿入されることが予想されます。


グルメ杵屋、非正規雇用の社員のうち5%を限定正社員に登用

非正規雇用の待遇を改善する動きが広がってきていますが、特に人手不足感の強い外食産業では顕著であり、グルメ杵屋は、非正規雇用の社員のうち5%を限定正社員に登用して、普通の正社員を他に振り向けるという人事政策を講じることが明らかになりました。

報道からまとめるとグルメ杵屋の非正規雇用の限定正社員化の内容は以下のようなものです。

  • パート・アルバイトの約440名(5%程度)を短時間勤務の正社員化
  • 短時間勤務の正社員は、1日4時間から6時間の勤務を想定
  • 給与体系は普通の正社員とは異なる
  • これを実現するために人事制度の変更を行う

限定正社員は、安倍内閣が規制緩和の中で言及されて以来、活用例が見られるようになってきました。

助成金が整備され、限定正社員の制度を設けて非正規雇用からの転換をすると、助成金が出るようなものが設けられており、政策的な後押しもある程度行われています。このような情勢から今後も同様の動きが続くものと思われます。

参考サイト

キャリアアップ助成金 |厚生労働省